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140文字SS:フレッシュプリキュア!【16】 1.ラブせつで『手繰り寄せた糸の先』/ねぎぼう 四つ葉町中を駆け回る。 もう一度その手をとるまでは……。 夕暮れになっても見つからず途方に暮れる。 それでも見えない糸口を手繰り続けた。 ―― 行くあても帰る場所もなく途方に暮れていた。 信じていた光も遠く閉ざされていく様に感じられた。 でも本当の光は…… ――手繰り寄せた糸の先にあった光。 2.ラブせつで『愛してる、って言ったら満足?』/ねぎぼう 「愛してる、って言ったら満足?」 (この世界の人間など……) 「そうだったらあたし本当に嬉しいよ!だってせつなが大好きだもん!」 まさかラブの背中にはまだあの羽根が? 「でも、せつなにもきっと大切な人がいるから……だから、言わなくてもいいよ」 そんな『天使』に目を背けるしかなかった。 3.ラブせつで【いつもとは逆の立場で / 吐息まじりに】/ねぎぼう 「新井白石が行った政治改革は何?」 「え~っと、しょ、しょ、『聖徳太子』!?」 「よく覚えていたね。でも、正解は『正徳の治』だよ」 「あ、そうなのね……」 せつなに勉強を教えるラブ、いつもとは逆の立場の二人だった。 吐息まじりに「はあ……歴史って難しいのね」 (せつなもたまにボケるなあ……) 4.ラブせつで『隣の人』/ねぎぼう 隣の人はその肩にもたれて気持ちよさげに眠っていた。 (起こすのも可哀想だけど、このままじゃ風邪をひくわ) せつなは毛布をかき集めてラブにかけると、頭を膝枕する。 そして自分は壁にもたれ掛かった。 「眠れなかったわね」 でも、この温もりがずっと続いてくれるなら……眠れないことも悪くない。 5.ラブせつで『ご機嫌取りも楽しみのひとつ』/ねぎぼう 「今日もそのペンダントでお出掛けかい?ご機嫌取りも楽しみのひとつのようだね」 「馬鹿なことを。私はメビウス様のお役に立つことを成しとげる。ただそれだけだ」 「ほう。ならそのタートルネックの服はなんだい?」 「こ、これは……作戦のひとつだ」 部屋ではウエスターが鼻血を噴いて倒れていた。 6.ラブせつで『愛に近い執着』/ねぎぼう 「まあいい、これでいつでもあの子に近づける」 「まあいい、次はあの子の変身アイテムを奪ってやる」 「まあいい、次は……」 “イースさん、まさに愛に近い執着ってやつですか?” 「ふん、愛などと虫酸が走る。そもそもこんなものがあるからいけないのだ、こうしてやる!」 「せつな~!」 「ラブぅ」 7.ラブせつで【 特別なフリをして 】 42話のイメージで/ねぎぼう 「ニンジン代わりに食べて、お願い!」 「もう、今日だけよ」 特別なフリをして、私の皿にニンジンのソテーを移させる。 「明日はちゃんと食べなきゃね、ラブ」 「明日もニンジン?」 「いいわね、ラザニアに入れちゃいましょう!」 「お母さん!?」 そうだ、明日から私は…… 「お母さん、肩もませて」 8.ラブせつで『本当、だったり。』/ねぎぼう 「せつなの占い、ぜんぜんデタラメなんかじゃなかったよ」 (占いはデタラメ、だったり……時には本当、だったり。 時々は本当らしいことも混ぜたほうが騙すのに効果があるから) 「占いは当たるかも当たらないも本人しだいよ」 (どんなに騙しても……全部本当のことのなるのだから。羨ましいくらい) 9.ラブせつで『新婚ごっこ』/ねぎぼう 「ただいま!」 「おかえり」 帰ってきて、そこにせつながいるのはとっても幸せ。 でももう少し欲張ってもいいよね? 「『アレ』でお出迎えして欲しいなあ」 「もう、ラブったら」 そう、『新婚ごっこ』でね。 「お風呂にする?ご飯にする?それとも……わ・た・し?」 せつな、顔が紅いよ? 勿論答えは…… 10.ラブせつで『どうせ嘘なんでしょう?』/ねぎぼう 「どうせ嘘なんでしょう? ウエスター。貴方の下手な嘘はもういいわ」 「ウエスターの言っているのは……嘘じゃないんだ、イース」 「サウラーまで!?」 「キュアピーチが……解放記念公園で踊っているんだ、今!」 せつなが窓から公園の方向に目をこらすと、観衆の取り囲む中央に確かにいた。 「ラブ!」 ※崩壊したメビウスタワーの跡地が公園になっていそう、ということで。
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「せつ……な……」 また、せつなを呼ぶ自分の声で目覚める。 時々見る、まったく同じ夢。 せつながあたしから離れて、遠くへ行ってしまう夢。 それは夢なんかじゃなかった。まごうことのない、現実。 あたしは確かにそれを受け入れたんだ。 お互いがんばろうねって、笑いもした。 けどそれは、ふり。受け入れた、ふり。 頭では理解していても、心では納得ができないでいる。 あたしはせつなを想う。夏になった今も、なお。 「ラブ、おはよ」 「おはよ、由美」 「放課後、昨日言ってたケーキ屋さんにみんなで行くの。七夕スペシャルパフェ。ラブも行くでしょ?」 「そうだね」 「蒼乃さんや山吹さんも誘う?」 「どーかな、ふたりとも忙しそうだから」 「そっか、残念だね」 予鈴を合図に、あたし達は席に着く。 あたしは授業に没頭する。 この春、著しく成績が下がって、お母さんは学校から呼び出しを受けた。 けど、お母さんは何も言わなかった。それが、かえって辛くて、あたしはお母さんに八つ当たりをした。 そんなあたしに、お母さんは言った。 「ラブ、せっちゃんの所に行きたいなら、構わないのよ」 「えっ……」 あたしは言葉を失った。 「ラブの気持ちくらいわかるわ。これでもあなたの母親だもの。 けど、約束して。いつかせっちゃんとまた会える日のために、自分を磨いておいてほしいの。 あなた達が再会した時、せっちゃんがもっとラブを好きになるように」 お母さん、ありがと。あたし、ちゃんとするよ。 いつか、せつなと一緒に居られるようなあたしになるために。 それからだ。あたしの成績はぐんぐん伸び、気づけば勉強が面白くなっていた。 せつなと暮らしていた頃の特訓で、基礎は叩き込まれていたらしい。 両親や先生だけでなく、美希たんやブッキーにも誉められた。 それでも、相変わらず夢は見た。 離ればなれになったばかりの頃は、毎晩のように見ていた夢。 回数こそ減ってはいたが、時々思い出したように定期的に見てしまう。 まるで彼女の居ない現実を、目の当たりにさせるかのように。 せつなの夢を見た日は、なかなか寝付けない。 朝の夢の残滓を引きずるように、ベッドの中で悶々とする。 せつなの声を、指を、舌を、あたしの身体は痛いくらいに覚えてる。 今夜もそうだった。 あたしは、パジャマにそっと触れる。 せつなのとおそろいの、ピンクのパジャマの中に、優しく手を差し入れた。 これは、せつなの指。 胸の突起を転がす。物足りない。唾で指を湿らせ、もう一度つまびいた。 これは、せつなの舌。 「ふ……」 愛しい人を思い出し、声がもれる。 胸への刺激は続けながら、もう片方の手を下着の中に差し入れる。 熱い潤いを感じ、塗り広げていく。中心に息づいた芯を、中指で左右に押しながら揺さぶる。 快感が全身に伝わってゆく。 「せつなっ!せつなあっ!」 何度も腰が跳ね上がり、あたしは果てた。 せつなを感じ、せつなをなぞる行為に夢中になった。 だから、気づかなかった。一瞬、赤い光が部屋を満たしたことに。 「はあ……はあ……」 まだ息の荒いあたしの脚に遠慮がちに触れる、誰かの細い指。 余韻に震えるあたしに生まれる、驚きと戸惑い。 その指は、ぴんと突っ張るように伸ばしていたあたしの脚を開く。 暗闇であたしの中心を探り当て、忍び込む。 馴染みのある感覚。この感じ、あたしのここは覚えてる。 愛しい指は、ノックするように抜き差しを繰り返した。 「ううっ、あん!あん!」 声を押し殺し、啼く。叫ぶ。大きくなる確信。沸き上がる歓喜。こぼれ落ち、シーツに染み込む涙。暗かった世界は、真っ白になった。 ぐったりしたあたしに、せつなはキスの雨を降らせる。 「帰ってくるなら連絡してよ……」 「恥ずかしいラブの姿を見たかったから」 「もう!」 「ふふ、驚かせた?ごめんなさい。けど連絡はできなくて。何故かメールも電話も繋がらないの。今、原因を調査中」 「今日は休暇?初めてだね、会いに来てくれるの」 「ええ。今日だけは絶対帰るって、行く前から決めてたから。ウエスターやサウラーも呆れてたけど」 せつなは楽しそうに笑った。 たくさん話した。せつなの仕事、ラビリンスの様子。 復興を最優先にするために、リンクルンを鍵のかかる場所にしまいこみ、その鍵をサウラーに管理してもらっていたこと。 復興が一段落し、いざリンクルンを取り出してみると、電話もメールもできなくなっていた。 けど、せつなはがんばれた。 七夕には帰る。あたしに会いに。そう決めていたから。 そして……。一人寝の夜のこと。あたしを想い、せつなもひとりで苦しんでいたんだ。 あたし達って、似た者同士なのかな。 「これからもっと忙しくなるの。でも、必ずまた来るわ」 「あたし、せつなが」 「待って。わたしに言わせて。いつか、いつか大人になって、ラブが自由にどこにでも行けるようになったら……ラビリンスに来てほしいの!」 「……」 「返事は?」 「……ずるい」 「何が?」 「あたしが先に言うつもりだったのになー。いつかラビリンスに、せつなの側に行かせてほしいって」 「ラブ……約束よ?」 「もちろん!せつなの側がいい。せつなの側じゃなきゃ、いやなの」 抱きしめたせつなから、想いがあふれてる。たぶん、あたしからも。 たとえ住む場所は離れてても、心は離れない。 誓いの口づけ。七夕の夜に、将来を誓い合う恋人たちのシルエット。 織姫と彦星も、きっと天の川から見てる。 あたしはこの夜を、一生忘れない。
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⑧ 「かわいいわねー犬。ブッキーが羨ましい」 「せつな犬欲しいの?確かに癒されるけど」 「美希ちゃんも犬飼ってるよね」 「うん、家に帰ると不法侵入でしっぽ振って待ってるし、勝手に膝の上に乗ってくるし、寝る時布団に入って擦り寄ってくるし……」 「ええ、私の美希なのに!そんな羨ましい犬がいるの?」 「自覚症状がないんだけどね……せつな、お手」 「美希とならずっと手を握ってたいわ」 「私今度首輪プレゼントしてあげようかな」 ⑨ 「せつなー、ご飯できたって」 「わかった。ねぇ、ラブ」 「何?」 「私にこんなに優しくしてくれるのはどして?」 「嫌だった?」 「ううん、嬉しいの。私にはもったいないくらいで……」 「だってあたしにとってせつなはお姫様だから」 「そうなの?」 「うん」 「ありがとう。私にとってラブはお殿様よ」 「いや、位の話じゃなくて……」 ⑩ 「美希ちゃん、風邪大丈夫?ゼリーとか買ってきたよ」 「こほっ、熱がなかなか下がんなくて。ありがとうブッキー」 「せつなちゃん呼ばないの?」 「騒がしくなるからいい。あ、新発売のプリンもある。やった」 「薬も入ってるから」 「ありがとうー……え、これネギ?」 「知ってる?風邪の時ネギをお尻に刺すと効果あるんだよ」 「へ、へぇ~……ブッキー物知りぃ」 「私ね試してみ―― 「せつなああぁぁぁ、アカルンで今すぐ来てえぇぇ」 ⑪ 「面白いねこの番組」 「この滑舌問題勝負しようよ」 「ラブノリノリね。まぁいいけど」 「楽しそう」 「じゃああたしから。有料道路料金!よっしゃー。次美希たん」 「有料道路料金。余裕ね。じゃあ次せつな」 「有料道っりろ料金!……駄目?」 「ぎりぎりセーフかな」 「んじゃあブッキー」 「ゆうろうどうっりょろうきん!」 「アーーウト!ブッキー意外とこういうの苦手なんだぁ。あはは……はっ!殺気?」 (小声)「ラブ、ブッキー唇噛み締めてる……」 (小声)「よっぽど屈辱だったのかしら……」 「だ、誰よ!こんなことしようって言い出したの!!!」 「「お前だよ!」」 ⑫ 「そろそろ眠くなっちゃった」 「お客様用の布団持ってきたよー。皆何処に寝る?」 「ラブの部屋だしラブはベッドね。あたしは下でいいわ」 「じゃあ私も下で寝ようかな」 「えー、だぁめ!せつなはあたしの隣」 「あたしはどうでもいい」 「じゃあさこうしよ―――」 「うぅ、あたしの隣が美希たんなんて。しかもベッドじゃないし……」 「しょうがないでしょ!あたしとラブだとベッド狭いんだから」 「私はブッキーとなのね。よろしくねブッキー」 「やっぱりベッドはふかふかだね」 「ベッド組楽しそう……」 「こっちは結構寒いわよね……」 「なんか言った?」 「「ノープロブレ厶です長官!」」 ⑬ 「美希何やってるの?」 「ストレッチ。体の線とか大事だからね」 「私が手伝うことある?」 「ない」 「じゃあ雑誌でも読もうかしら」 「一緒にやる気はないんだ。確かにせつなは羨ましいぐらいバランスのとれた体型よね。よっと……」 「美希柔らかーい。あ!……………」 「何?」 「つ、続けて!な、何でもないから」 「何で慌ててるのよ」 「慌ててないわ。美希が前屈した時シャツの間からブラなんて見えてないし!」 「馬鹿?」 ⑭ 「ブッキー、せつなが振り向いてくれない……」 (棒読み)「ラブちゃんは可愛いから大丈夫だよー」 「感情なし!?はあぁ、だってせつなってば口を開けば美希美希って」 「だから大丈夫だって。せつなちゃんヘタレだから」 「ちょっ、あたしのせつなを!そ、そうだよね。大丈夫だよね」 「当分はね」 「はうぅ」 「ラブちゃんもヘタレだから」 「むー、ブッキーってば優しくなーい」 「諦めないの?」 「諦めないよ!あたしはせつなが大好きだからね」 「あ……そう」 「ん?なんか元気なくない?あたしはブッキーも美希たんも大好きだから」 「うん、私もラブちゃんが好き」 「へへー、じゃあそろそろ帰るね。まったねー」 「うん。バイバイ。……………………………私のヘタレ」 み-734へ
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A Will/そらまめ 「例えば僕が君を忘れてしまったとして、あるいは、君が僕を忘れてしまったとしたら、君と僕ははじめましてから始めた方がいいのか、さよならと言えばいいのか、悩んでしまう」 ―――Abel Dinger 『A Will』和訳 p.37(全草社)より はらはらと空から落ちてきた一枚の葉が、手元の開かれた本の上にふわりと着地した。そこは丁度読み進めていた行で、まるでもうそろそろ読書はやめたらと言われたような気がして下げていた視線を上げれば、ここに来てベンチに座った時より随分と太陽が傾いていることに気付いた。 物語の世界に入るとどうにも抜け出せなくなるのはなぜだろう。油断していたらそのまま帰ってこられなくなりそうで、今だって話の余韻でぼーっと空を見ているくらい。そのうち、登場人物達に交じって自分だったらどうするだろうと考えだしたあたり、私はこの本を気にいったのだと思う。 今日は珍しく一人だ。ラブは学校に用事があるとかで朝慌てて出掛けてしまった。美希はモデルの仕事に隣町まで、ブッキーは山吹病院の前を通り過ぎた時に院内を忙しなく動いているのが見えた。だから今日は一人でできる事をしようと図書館に寄った後、公園のベンチに腰を下ろした。 久々に一人を体験すると、こんな日もいいかもしれないと思う。 ただそれはいつもみんなのいる日常があるからこその想いで、以前のようになんでもひとりでやっていた日に戻れるか判らない程度には、この生活に慣れ始めていた。 「最近、突然意識を失って倒れる人が多いんですってね」 夕飯時、不安そうなあゆみの言葉にラブもせつなも顔を見合わせる。確かに近頃この街で意識不明で病院に運び込まれる人が増えていた。ニュースでも取り上げられ、季節の変わり目から熱中症じゃないかと当初は言われていたものの、担ぎ込まれるのは女子学生が多く数日間目が覚めず記憶障害も発生している事から、ただの病気ではないのではと噂されている。記憶障害の程度は様々で、倒れる前後の記憶がない人から、自分が誰であるか思い出せない人までいるらしい。ただ、どの被害者も数日で元に戻っている。一部では宇宙人の仕業だとかありえない話まで持ち上がり、噂に尾びれがついて大げさに街中を駆け巡っていた。 ラブ達の学校でも病院に運ばれた人がいたために、クラスでも割と話題になっている。 「知ってるよ。学年は違うけどうちの学校の子も倒れたらしいから」 「そう…ラブもせっちゃんも気を付けてね。水分補給はこまめにするのよ」 「うん」 「わかったわおばさま」 記憶障害。 被害者は女子学生。 この二つの事実から自分を狙っているのではないかと先ほどから嫌な予感が止まらない。この街で奇妙な事が起こる時は大抵ラビリンスが関係しているというのは、この半年で周知の事実となっている。ゲージが溜まった今、人々を不安にさせてFUKOを集める必要はないはずだが、新しくこの街に来た幹部はサウラー以上に狡猾な作戦を思いつく。 近頃腑抜けがちな気持ちに喝を入れたタイミングで、こんな問題解けるかー!と叫ぶ声と机を叩く音が隣の部屋から聞こえてきて何とも締まらない決意表明になった。 「いくよみんな!!」 もう何度目になるかわからないラブの掛け声に返事をして、思い切り力を込めてナケワメーケに蹴りを入れると、その分だけ高く巨体が空に飛んだ。いつものように全力で、いつものようにスティックを敵へと向ければ、いつもみたいに光に包まれた。 もう少しでその姿もただのダイヤ型に変わるだけという時だったから、なんて言い訳だが、四方を囲んでいる自分達もほっと一息ついていた。 だから、最後の気力を振り絞ったかのようにナケワメーケの腕がこちらに向き、認識すら難しいほどの速さで何かを放った事にすぐさま対応できなかった。 「ぐぁっ…!」 鋭い痛みと衝撃でよろけそうになる体をなんとか踏みとどまらせる。鈍い痛みのする胸に手を当てて触ってみたが、出血らしきものはない。少しもしないうちに痛みも引いた。とっさにみんなは大丈夫だろうかと周囲を確認してみたが、未だ激しい光を見上げており特に変わった様子はなかったので一安心。どうやら被害は自分だけで、気づかれなかった事にも安堵する。 ダイヤも消滅して、変身を解いた後服の上から胸の辺りを触ってみたが、特に違和感はなかった。 「なんで今日はナケワメーケだったのかしら?」 「今日はナケワメーケな気分だった。とか?」 「そんな適当に決めてるものなの…?」 「違う…と言い切れない程度の馬鹿がいるのは確かよ」 ちょっと間違えたとか言ってナケワメーケを召喚しそうなアホを知っているので否定はできない。 そういえば、今日のナケワメーケは何を媒体にされていたのだろう。 ―――――――… 「…あれ、せつな今日日直だっけ?」 「ええ。先に学校に行ってるわね」 「うん。また後でね」 布団から上体を起こし目元を擦るラブにそう言った後、学校へと向かった。 定期的に回ってくる日直は、みんなより早めに登校してやらなければならない雑務がたくさんある。日直の仕事が嫌だと思った事はない。みんなは面倒だとぼやいているけど、私にはみんなの面倒すら新鮮で、楽しくて、毎日日直でもいいからこんな日がずっと続けばいいのにと、ひとりの教室で黒板に名前を書きながらそんな事ばかり考える。 三十分ほどして一通りの仕事が終わったが、クラスメイトはまだ誰も来ていない。このままみんなが登校してくるまでぼーっとしているのはもったいない気がして、この前から読んでいる本を鞄から取り出した。 「僕が持っている大切な物を一つずつ捨てろと言われたら、最初に捨てるのは君との思い出だろう。だって僕にとって大切な物はそれしかないから」 ―――Abel Dinger 『A Will』和訳 p.152(全草社)より 一人また一人と教室にやってくるクラスメイトに挨拶をしながらラブを待つ。また遅刻ギリギリで来るのだろうか。いつもは自分が急かしているのでそうそう遅刻はしない。最近あゆみおばさまに「せっちゃんが来てからラブの遅刻癖が改善されたみたい。ありがとう。これからもラブの事よろしくね」と言ってもらえて、自分が誰かの役に立った事がとても嬉しかったのを覚えている。 時計をちらりと見た後パタンと本を閉じると、同時にチャイムが鳴って、それと同時に勢いよく教室のドアがスライドされる音が合わさり、今日は朝から随分と賑やかになった。 「…っセーフっ!!」 「アウト―」 「なんでさ大輔っ! 今のはギリギリオッケーでしょ!!」 「朝からうるせーなー、象がこっちに走ってきたのかと思ったぜ」 「なんだとー!」 「はいはい、席につけー、遅刻にするぞ桃園―」 「ぅわっ先生いつの間に…」 ドアのところで問答していると、たしなめる声が背後から聞こえてぎくりと肩が上がる。丸めた教科書を片手でポンポンと叩きながら見下ろしてくる担任に、たはは…と愛想笑いをしてこそこそと自分の席に着く様子は、一瞬で教室中に笑いを誘った。 「遅かったわねラブ」 「あ、せつな。先に行くならそう言ってくれればよかったのに。せつないつまでたっても降りてこないから、朝ご飯三杯もおかわりしてすごいのんびりしちゃってたよ」 「ラブ寝ぼけてたの? 日直だから先に行くってちゃんと言ったじゃない」 「あ、あれ? そうだっけ…? たはは…」 ジトーっと見るとバツが悪い様に視線を逸らし、わざとらしくぴゅーぴゅーと掠れた口笛を吹いてごまかそうとしていた。 ―――――… 「あのね…あたし今から変な事聞くけどいい…?」 「その前置きがすでに変だけどいいわよ」 「どうしたのラブちゃん?」 せつなは委員会で今日は別々に帰ってくる予定で、それぞれ他の学校に通う幼馴染二人と一緒にカオルちゃんのドーナツを食べながら待っていた。 「えっとさ…あたしとせつなってなんで仲良くなったんだっけ?」 「は…? ラブ何言ってるのよ」 「だから最初に変な事聞くけどって言ったじゃんー!」 「何かあったの?」 「何かっていうか…なんか最近せつなと一緒にいると、どうして同じ学校に通ってるのかとか、どうやって仲良くなったか一瞬判らなくなる時があって」 「ラブ、まさかアンタまで例の記憶障害になったの?」 「記憶障害…? あ、そういえばそんなのもあったね」 「熱は…ないみたいだね」 ラブのおでこに手を当てて祈里が確認するもいつもと変わらない体温で、くすぐったいよーと笑うラブの表情も言動以外には問題なし。美希の方に顔を向けると彼女も分からないと言う風に首を左右に振った。 「違和感ある所にラビリンスありって言うし…」 「何その格言。初耳だけど」 「あたしの経験から生まれました。でね、用心しておくに越したことないから二人にお願いしたい事があるんだけど…あのね、もし…――」 ―――――… 校舎の窓越しに外を見ると、茂っていたはずの木にはもうほとんど葉が残っておらず、大半が下の地面に落ちている事に気付いた。それがまるで絨毯のようで、これから冬になるというのにカラフルすぎるそこは何となく場違いに感じた。 一体いつから葉が枯れ落ちていったのか自分には思い出せなくて、そんな風景の変わり様のように、ゆっくりと異変が起きていた。 例えば、一緒に登下校をする回数が減った。宿題を見せて欲しいと自分に言ってこなくなり、代わりに別の人に頼んでいたり、目が合うと一瞬だけ驚いたように固まったり、なんとなく、以前よりもラブとの間に溝が出来たような気がした。でも、本来はこれが普通なのかもしれないと思って、気のせい程度の事にいちいち答えを求めるのはラブを束縛しているようで、気が引けて小さな変化の理由を聞くことはできなかった。 そんなもやもやとした気持ちでいると、時折胸がチクリと痛んだ。 「ラブ、最近せつなと帰ってくる事減ったわね」 角を曲がったところで美希と行き会って、そこから二人で歩きながら雑談をする。お互い違う学校だから、今日の変わった出来事とかを話のネタにすれば話題には事欠かなかった。その話の延長から、そういえば同じ学校に通っているはずの二人が最近一緒に帰っている姿を見かけなくなったと美希は思いだす。 「え、せつな? そういえば職員室にプリント提出しに行くって言ってたね」 「そのくらいの用事なら待っててあげればよかったじゃない」 「えー、なんで? 別に一緒に帰らなきゃいけないわけでもないのに」 「っ…、それは、そうかもしれないけど…」 ごく自然に、それが普通とでもいうように返された答えは予想外なもので、変なのーと笑うラブは背中に背負った夕日の逆行のせいか、言葉にできない違和感を纏っているようで知らずに息を飲んだ。 「ら、ラブ。今、リンクルン持ってる?」 「急にどうしたの美希たん? そりゃ持ってるけど…」 「ちょっと見せて」 「えっ、いいけど…」 隠す様子も素振りも見せずに差し出されたそれは紛れもない本物で、首を傾げるラブの仕草もいつも通りだった。 …それでも、おかしい。 だってあのラブが、理由もないのにせつなを置いて帰ってくるなんて。 戸惑いながらもリンクルンを返すと、受け取ってポーチへと戻し、それで今日さーと、今の事を気にする様子もなく話す学校での出来事に再び耳を傾ければ、とりたてて変わらぬ平和な日だったらしい。ただ、驚くほどせつなの話題がでてこない。いつもなら頼んでもないのにせつながすごかったと興奮気味に話すのに。 「ラブ、今日のせつなはどうだったの?」 「せつな? 別に普通だったと思うけど…っていうか美希たんさっきもせつなの事聞いてきたけど、美希たんとせつなってそんなに仲良かったっけ?」 その言葉にギシリと体がさび付いたように動けなくなった。数歩先で立ち止まり振り返ってきたラブは、不思議そうにこちらを見ている。言葉にならない緊張が走り、背中に冷や汗が伝った気がした。 「なに…言ってるのよラブ…アタシ達プリキュアで仲間じゃない…」 「いや、そうなんだけどさ。あたしもせつなの事よく知らないからどうって聞かれると少し困るっていうか」 ラブがせつなをよく知らないなら、アタシ達はどれほどせつなを知っていると言えるのだろう。あんなに一生懸命に想いを伝えていた人が、知らないなんて言葉をそんな平気そうな顔で言うなんて。 「ラブは、なんでせつなと知り合ったんだっけ?…」 「え? 四人目のプリキュアを探してて、見つけたからじゃないの?」 「そう…だったわね…」 あまりに簡素すぎる答え。一言で語れるような話じゃなかったはずのせつなとラブの関係は、同じプリキュアで居候というただそれだけの存在になっていた。 何か変だと気付いてから、一先ずいつも通り自分の家の前で手を振ってラブとは別れ、玄関の扉を閉めると同時にリンクルンで祈里とせつなを公園に呼び出した。制服姿で鞄を揺らして走ってきた祈里は学校帰りだったようで、何があったのと息を切らせながら心配そうにわたわたしてこちらを見る。せつなはそれとは対照的に、暗くなった辺りよりさらに暗い顔で歩いてきた。その手にはぐしゃぐしゃになった一枚の手紙を握りしめて。 「ごめんなさい…」 「どうしてせつなが謝るのよ」 「ラブの事、私のせいだから…」 「せつなちゃん自分を責めないで。知っている事があるなら教えて?」 …以前ラブが言っていた「違和感ある所にラビリンスあり」の格言は大正解だったようで、例によってプリキュアである自分達を狙っての今回の事らしい。手にした手紙を読み上げるせつなの声は固く必死で感情を抑えようとしている風にも見えて、こちらに関してもラブが正解かもしれないと今はいないリーダーを改めて見直した。 「にしても今回はいつもとは違う厄介さね」 「この作戦を考えたのは多分ノーザよ」 「ノーザってこの前来た女の人の事?」 「ええ。サウラーよりもずっと容赦のない人よ。だからこうしてわざわざ教えてきたのよ今回の事。そっちの方がダメージを大きくできるって考えて」 そう。これは自分に対しての精神攻撃が一番の目的だろう。ゆっくりと時間をかけたのは今回の事が相手にとっては暇つぶし程度でしかなく、ソレワターセではなくナケワメーケを使った作戦もシフォンを狙うためではないから。最近起きていた記憶障害も、今回の作戦のためのナケワメーケを作る実験としてやっていたらしい。 そして末出来上がったのが、寄生した人の一番大切な思い出を奪うナケワメーケ。 重要なのは寄生した本人から思い出が無くなるのではなく、一番大切な思い出を一緒に築いた人から寄生した人の思い出を奪うという事。 ラブとの思い出が一番大切だったから、ラブからせつなという人間との思い出が消えた。加えてその変化に疑問を持たない程度に辻褄を合わせた記憶が今のラブにはある。 寄生…という事は、あの時ナケワメーケに攻撃されたのがそれだったんだと気付いて、どうしようもなく自分に腹が立った。この計画のために関係ない学生が被害を受けてしまった事もそうだし、ラブと一緒にいればいる程、ラブの記憶に干渉してしまう事もそうだ。 加えて自分の思い出が原因の記憶障害だから、このままでは自分に関わった全ての人が被害の対象となる可能性がある事。今はまだせつなという人物との思い出が奪われているだけだが、そのうち自分自身の事すら分からなくなってしまうかもしれない。そんな事になれば、プリキュアが終わってしまう。 「少し、距離を置きましょう」 「せつなちゃん…」 「別にずっとっていう訳じゃないわ。今回のナケワメーケをどうにかするまでは」 眉が下がる祈里から心配している気持が痛いほど伝わってくる。それなのに何もかも隠して静かに微笑むだけのせつなに対して、二人を見ていた美希に苛立ちが募った。 気づかれないほどそっと、握りしめていた手に力を入れる。感情に任せて怒ってしまいたくなるのを抑えて、そっと息を吐き出して、ラブとの約束もあるのだから落ち着けと自分に言い聞かせる。 「記憶が奪われないようにアタシ達との接触も極力避けるって? それこそラビリンスの思い通りになっちゃうじゃない」 「大丈夫よ。ラビリンスが街に現れたらアカルンですぐにみんなのところに行けるから」 「大丈夫、ねぇ…何がどう大丈夫なのか分からないわね。例えばせつなの言う通りにして、無事この件が解決したとしても、せつなはきっと元のような状態に戻ろうとしないんじゃないの? 今みたいにアカルンがあるからとか言って」 どれほど自分が真剣かわかってほしくて睨みつける程強い視線を送れば、せつなは同じようにこちらを見るだけ。何も言わない。何も変えない。 自分のせいで周りに迷惑がかかるのを常に恐れているせつなは、あの手紙でその事実を突きつけられて自分を許せなくなっている。今のせつなは、アタシ達の傍にいる事すらよしと出来ないのかもしれない。 「…自分がいなくなれば、解決するとでも思ってるの…?」 ふっと目を逸らしてため息交じりに足元を見た。街灯が無ければ自分の靴と地面の区別もつかないくらいには時間は過ぎていて、想いさえもこの暗闇に飲まれてしまいそうな気がしてたまらなくなった。 「私は…みんなを護りたいの」 そんな気持ちを知ってか知らずか、せつなは沈んだアタシの心に一瞬で火をつけるような事を言う。 「せつなはアタシ達の何を護ろうとしてるのよ!!」 声を荒げるとせつなの肩がびくりと上がったが、今は気にしない事にした。 これだ。問題解決のために真っ先に自分を切り捨てる方法をとろうとする所や、それが当然と思っているのが本当に腹が立つし、一人で抱え込んで耐えようとしているのとか、出来るなら正座をさせてその事について何時間でも説教してやりたいが、それと同じくらい抱き締めてあげたくなる。泣きたくなる。 「アンタはもうアタシ達の仲間なの! みんなを護りたいっていうなら自分も含めて全員を助ける方法を考えなさいよっ!!」 「…―――あのね、もし、これから先少しでもあたしがおかしい事してたら色々と疑ってほしい。あたし自身が問題ないって言ってもだよ。それから、そうなった時、せつなを一人にしないであげて。お願い」 ラブから言われた言葉を思い出して、意地でも一人になんてしてやらないと自分を奮い立たせる。聞いた時はあまりに真剣に言うので驚いてしまったけど、時々起こる馬鹿みたいに鋭い勘が今回発揮されたようだ。 気に入らないのはやり方よりもその姿勢。 祈里に目線を送れば、先ほどまでハの字だった眉は上を向き、気合を入れるように胸の前でグッと拳を作って頷いてくれた。 「まず、今回の件を解決するためにもせつなはすぐ脱走しようとする癖を治しなさい」 「脱走って…」 「大丈夫だよ美希ちゃん。わたし達せつなちゃんの手を離したりしないもの。嫌だって言っても離さないからね?」 「ブッキー…」 「ブッキーの言う通りね。せつな、アタシ達から逃げられるなんて思わない方がいいわよ」 根拠のない自信で人を安心させるのはラブの専売特許だけど、今回はそれを倣ってみる。胸をつきだして偉そうにしてみれば、せつなの眼が大きく見開かれた。 「…ふ、ふふっ…あなた達には本当にいつも驚かされてばかりね。いつも励まされてばかりで……この記憶をみんなと共有できなくなるのは…哀しい…わね…」 だんだん小さくなっていく声と一緒に歪んでいく顔に喉の奥が痛くなって、震えだした体を前後から囲むように二人で抱き締めると、この状況ですら耐えるように嗚咽を我慢しているのが判り、知らずにこちらも唇をぐっと噛んでいた。 「置いていく方と置いていかれる方、どちらが辛いかと聞かれても、今の僕には分からない。そんな事より、君が今隣にいない事の方が重大だ」 ―――Abel Dinger 『A Will』和訳 p.202(全草社)より 何かおかしいと思ったら即報告。 言葉にすれば当たり前の事を今までしてこなかったのは、自己完結ばかりだったからだろう。実は胸元に攻撃を受けていたと話すとそれはもう言葉にできないほど二人は怒り、上記の文を美希と祈里に呪詛のように言われ、二人のいない今もなお頭の中で壊れたラジカセのようにそのフレーズばかりがリピートされ続けている。 今回の件で自分が如何に駄目な対応をとっていたかはよく分かった。分かったからもうやめてくださいと授業中うんうん唸っても、隣の席のラブは気にも留めなかった。 今のラブからしたら自分は通行人Aのようなものなのだろう。そう自分で考えておきながら、気持ちが沈んだ。 放課後、ラブ以外の三人で人目のない森へ集まる。寄生されたのだろう胸元にはビー玉のような丸い模様があり、押してみると少しだけ痛かった。以前より円が大きくなっている気がしないでもない。それを話してみると、時間が経ったからか、記憶の吸収によるものではないかと言われた。 まずは寄生されているのをどうにかしなければという事で話し合う。 「ナケワメーケがやった事なら、やっぱり浄化すればいいんじゃないかな?」 「それが妥当よね」 結論は最初からそれしかなくて、プリキュアの力でどうにかするのはわかる。でも、一つだけ気が気ではない事があった。 「このナケワメーケを浄化できたとして、それでラブの記憶は戻るのかしら…」 「っ…それは、正直わからないわ…」 手紙には「奪う」としか書かれていなかった。奪ったものを蓄積している本体が消滅してしまったら、記憶までも消えてしまうのではないか。これまでのラブとの関係が無かった事になると思うと、とても怖かった。今までの絆が、繋がりが消える。多いとは言えない自分の大切な思い出の中で一番輝いているモノが無くなってしまう消失感に、自分は耐えられるだろうか。 「せつな。キツイ言い方かもしれないけど、このままじゃ事態は悪い方へ行くばかりよ」 「わかってる。わかってるの…」 自分に言い聞かせるように呟きながら、耐えるように服の上から胸を掴んでいる姿は痛々しく、顔色も悪い。 せつなにとってラブがどれだけ大切で信頼しているのかが見て取れる。そんな人に自分が忘れられてしまうかもしれないのは、想像できないほど辛いだろう。でも、ラブがせつなを、せつながラブを大事にしているのに負けないくらい、自分達だってせつなは大事だから。ラブの思い出が消えてしまう事を、自分の全てが終わってしまう事と思わないでほしい。一人じゃ辛いなら支えるし、一緒に乗り越える事だってできるから。 祈里に目配せをする。 胸を掴んでいる手に覆う様に自分の手を重ねて、ゆっくりと服から離す。反対の手は祈里が両手でそっと持ちあげた。 「アタシ達がついてるわ」 「せつなちゃんはひとりじゃない。この手は離さないよ」 「……私は、ラブに連れ出してもらえて、初めてこの世界が好きになれたの」 「うん…」 「そんなラブがいなくなるなんて、私…」 「せつな、ラブはいなくなんてならないし、もしせつなとの記憶がラブから無くなっても、せつなが今までを覚えているなら、無かったことになんてならないわ。今まで手を引いてもらっていたのなら、今度はせつながラブの手を引く番よ」 隣で、手を繋いであげて。 背中を押すと同時にここにいていいという意味が含まれた励ましの言葉に、美希なりの優しさを感じて、何も言わずにずっと手を繋ぎ続けてくれている祈里の優しさも伝わって、そんな温かさに、自分は本当に恵まれた場所にいるのだと理解できた。だから、ゆっくりと頷けた。 ぜえぜえと息を吐きながら膝と両手をついて俯く私を前に、ベリーとパインの顔もすぐれない。覚悟を決めて二人から浄化の技を受けたが、ギリギリのところで威力が足りずに胸元の模様は消えなかった。初めてまともに技を受けた感想は、痛くはなかったが違和感と圧迫感であまり気持ちのいいものじゃなかった。 「ラブも…呼んでくるしかないか…」 「え…」 思わず顔を上げてベリーを見ると、そんな顔しないでと悲しそうに言われる。覚悟したとはいえ今のラブに近づくのは怖いし、記憶も奪ってしまうからと、今日に至っては一言も会話していない。 「アタシとパインの二人じゃ無理だったけど、ピーチのラブサンシャインも合わせればそれも消えるはずよ。今のラブに会うのは辛いかもしれないけど…」 「…そう、よね…」 「おーい! どうしたのさこんな所に呼び出すなんて。何かあったの?」 私服の上にジャケットを羽織ってやってきたラブは、まっすぐ前を見ながらいつものような足並みでやってくる。 こちらに近づく度にクシャリ、クシャリと枯葉の踏まれる音が大きくなり、無造作に絨毯をかき分ける様が得体のしれない何かに見えた。 「細かい説明を省くと、これからアタシ達と一緒にせつなにラブサンシャインを打ってほしいの」 「…ふーん……いいよ」 「理由は、聞かないの?」 「…うーん、別に。あんまり気にならないし」 たとえ浄化の力だとしても、仲間に技を放つ。それを一瞬考える素振りを見せただけで気にならないとぼやく今のラブには、欠落してしまった記憶と一緒にせつなという存在さえも曖昧になってしまったんだろうか。睨むでもなく、蔑むでもなく、有象無象のようにしかその眼には映らない。それは、踏まれても気付かれなかった枯葉と一緒だった。嫌われるよりも存在を否定される方が寂しいと、この時初めて知った。 「いくわよ。用意はいい?」 変身も終わりスティックが構えられ、ベリーの掛け声が静かな空間に響く。頷く他の二人に続くように頭を上下させれば、アイコンタクトでもわかる「絶対に助ける」というベリーとパインの想いに、もう一度目線を送る。ピーチの方へも一瞬だけ目を向けると、交差した視線から困惑するように揺れる感情が見て取れて少しだけ首を捻った。 「プリキュア! エスポワールシャワーフレッーシュ!」 「プリキュア! ヒーリングフレアーフレーシュっ!」 「プリキュア! ラブサンシャイン、フレーシュ!」 「…くっ……ぅぁ……」 三人からの力に、内側からもやもやとした圧迫感が上がり思わず声が漏れる。眩しくて開けていられず細めた目線の先に、苦しそうな表情でスティックを向けるピーチがいた。 記憶が無いにも関わらずそんな顔をしてくれたのが嬉しくて、ラブはラブなんだなと思えたところで記憶が途切れた。 ―――… 「えーと…あたしの、友達…ですよね…? すいません…思い出せなくって…」 目が覚めると自分のベッドで寝ていた。直後に部屋に入ってきた美希が驚いたように駆け寄ってきて、自分が倒れた後崩れるようにラブも倒れたのだと教えてくれた。 そして今、申し訳なさそうに謝るラブがベッドにいる。私の記憶は残っていないようで、初めて会いましたとでもいうような余所余所しさだった。二人きりの空間に少しの緊張が生まれる。 ラブと二人になってこんなに落ち着かないと思ったのは初めてで、本当はこの場から逃げ出してしまいたかった。 それでも…――――数回深呼吸をして、一歩前へ。 「…以前の私なら、さよならって言うんでしょうね。こうなってしまったのは私のせいだし…でも今は…はじめましてからまた始めたいの」 「えっと…」 「私は、東せつなって言うの。あなたの名前を教えて?」 「桃園…ラブ…」 「ラブ。私と、友達になって貰えないかしら?」 ラブが何も覚えていなくてもいい。今度は私から手を伸ばすから。 「ぅ…ぅう…」 「えっ…」 綺麗に笑えていたかは分からないがその時出来る精一杯の笑顔で言えば、ラブは途端に泣きそうな顔になり、流石にその反応は予想外で驚く。 きょとんとした後、いつもみたいな笑顔でいいよと言ってもらえると思っていたから。だから、そんなに、泣くほど自分と友達になるのが嫌だとは思わなくて、一歩前に踏み出すことがこんなにも大変で、想いを伝えて受け入れてもらえないのがこんなにも辛いとは思わなかった。 本当に、今更、こういう立場になってラブが自分にしてくれていた色々がどれだけ嬉しかったか分かったのと同時に、その気持ちを共有できなくなったのがとても悲しくて、痛かった。 「…ごめんなさい。今のは、忘れて。私とあなたは元々知り合い程度だっただけだか…」 「うわぁあああん!! ごめんねせつなー!! あたしせつなの事忘れてなんかないよずっと友達だよーーー!!!!」 「…は?」 一からでも友達になりたいと思った。でも、ラブが拒むなら自分はただの居候のままで構わない。そう思ってさっきの自分の申し入れを無かったことにしようとしたら、いつものような大泣きでベッドから飛び出したラブが抱き着いてきた。いや、それだけならまだしもラブは今何と言った?忘れてないとかなんとか言わなかったか…? 「だから言ったじゃない。せつなはまた友達になってくれるって」 「でもあのままいってたらわたし達の今回の苦労が水の泡になるところだったね」 ドアが開く音と同時にそんなセリフが背後から聞こえてそちらを向けば、美希と祈里が苦笑いしながら入ってきた。 「…どういう事?」 「そんなに睨まないでよ。ごめんって」 「今回の事よく覚えてないっていうからラブちゃんに話をしたらね…?」 【は? あたしがせつなを蔑ろにしてた? あはは、あたしがそんなことするわけないじゃん】 【事実よ。せつなの事なんてよく知らないってアタシに言ったし】 【え、嘘…まじで…? ど、どどどうしよう…せつなに何てこと……どうしよう。せつな、もう前みたいに隣にいてくれないかもしれない…】 【大丈夫だよラブちゃん】 【だってせつなだよ!? 一度手を離したら、もう掴んでくれないよ…うっ…ぐす…】 【はー、わかった。ならこうしましょう…―――】 「と、いう訳で、ラブがあまりにもせつなを信用しないからこうしてみたの」 「あ、あのねせつな、別にせつなを疑ったりしてたわけじゃなくてね? あの…」 「いいのラブ。私の日ごろの行いのせいよね」 普段からそれだけラブを不安にさせてしまった事を謝らなければいけないと思ったが、泣きべそをかきながら抱きついてくれたのが嬉しくて、ごめんの代わりにありがとうと小さく呟いて笑った。 「僕と君を天秤の両端に置いてその価値を量っても、僕が君を必要とする想いまでもは量れない。だってそうだろう? 数字で測れるほど、僕も君も予定調和な人生を歩んできたわけではないのだから」 「どうしたの? いきなり」 「今読み終わった本の最後のページにそう書いてあったの」 『A Will』というタイトルとは裏腹に、登場人物が誰一人として死ななかった物語。 人は死ななかった。それでも最初より随分と様々な人の考えや人物背景が変わった。変わった事を死んだと表現したかったのかはこの著者にしかわからない。それでも、変わる事を死と捉えるなら人は何度生まれ変わるのだろうと、空に漂う雲の数を数える頭の片隅で少しだけ考えた。 「せつな、みんな来たよ。本の世界から帰ってきて!」 「大丈夫よ。もう戻ってきてるわ。行きましょうラブ」 パタンと閉じた本から少しだけ風が起こり、丁度落ちてきた葉がその風で少しだけ軌道を変えた。 ※作中に登場する、『A Will』(Abel Dinger著)という本は作者の創作であり、「全草社」という出版社は実在するものではありません。
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一六◆6/pMjwqUTkgの140文字SS【2】 1.ラブせつで『嘘、だったりして』/一六◆6/pMjwqUTk 「せつな」 「ん?」 「せつな」 「なぁに?」 声も表情も全て嬉しそう。 私と暮らせて夢みたい?私こそ幸せ過ぎて現実感無いわ。 「せつなぁ!返事して」 「ずっとしてるじゃない」 (嘘、だったりして) わざと心の中で呟いて思わず笑った。 ラブの嘘なんてこの現実よりずっとありえない――そう思える自分に。 2.ラブせつで『もう一度、恋をしよう』/一六◆6/pMjwqUTk 映画のタイトルは『もう一度、恋をしよう』。 見終わってラブが一言。 「あたしももう一度、恋したいな」 瞬時に胸の中が凍り付き、声が出ない。 俯く頭の上でラブの声がする。 「だからさぁ。今日これから、デートしよ?」 「……え?」 そっと目を上げると、私に負けず劣らず真っ赤な顔が、ニコリと笑った。 3.フレッシュで「敬老の日」/一六◆6/pMjwqUTk 「何だい、敬老の日だって?年寄り扱いはよしとくれよ」 眼鏡の奥から鋭く睨まれて、幼い兄妹が俯く。 「それであんた達、何が欲しいんだい?」 「僕らのお祖母ちゃんが、ここの水飴が懐かしいって言ってたから……」 誰も気付かなかったけど、しかめ面が僅かに緩んだ。 「ふん……あと二つ持ってくかい?」 4.あゆみ&せつな「明日はコロッケよね?」/一六◆6/pMjwqUTk 「明日はコロッケよね?お母さん」 買い物に行く途中で、私の顔を見上げる紅い瞳。 明日は遅番で娘たちが夕食当番。メニューはせっちゃんの得意料理だ。 「ええ、楽しみにしてるわ」 頬を染めてはにかんだように微笑む彼女は本当に嬉しそうで――思わず心が揺らぐ。 今日はピーマン、買うのやめようかしら。 5.ラブせつで『迷子のお知らせ』/一六◆6/pMjwqUTk 「迷子って、家族とはぐれたってことよね?」 館内放送にせつなが呟く。 「ラブ、探すわよ!」 「わ、せつな待って!」 その時子供を呼ぶ声と、ママ~!という泣き声が。 放送で言ってた服装の子が、お母さんに抱きしめられてる。 「良かった」 ホッと息をつくせつなの細い肩を、あたしもギュッと抱きしめた。 6.ラブせつで【熱いカラダを… / 可愛い声が聴きたい】/一六◆6/pMjwqUTk レッスンの後、汗びっしょりの熱いカラダをタオルで拭っていると……。 「ひゃぁっ!何するの、ラブ!」 「えへへ~。せつなの可愛い声が聴きたかったの」 もうっ!人の首筋にいきなり冷たいペットボトル押し付けるなんて! 「ひゃっ!ぎゃっ!せつな待って!」 今度は私がラブの可愛い悲鳴を聴いてあげる。 7.なぎさ&ほのか&ひかり 「ありえない」/一六◆6/pMjwqUTk 「なぎささん「ありえない」連発ですね、メップルが帰って来てから」 ひかりの言葉にほのかも微笑む。 「「ありえない」と「ありがとう」は元は似たような意味なの。 あんな言い方してるけど、なぎさって照れ屋だから」 「何言ってんの?ほのか!ありえない……絶対ありえなーい!」 なぎさの絶叫が響いた。 8.満&薫 「どうでもいいわ」/一六◆6/pMjwqUTk 「ねえ薫。咲と舞が、夏休みの計画を話してたわ」 「なんて?」 「咲は、みんなで海に行って瓢箪岩に登りたいって。舞は、みんなで花火というものを見に行きたいって。とっても綺麗なんですって。ねえ、薫はどっちがいい?」 「どっちも……コホン。どうでもいいわ」 「ふふっ、そうね。どっちもいいわね」 9.一輪の花/一六◆6/pMjwqUTk 「ええええりか落ち着いて下さい!」 「つぼみこそ慌て過ぎ!あ~今どーなってんのぉ!」 「いちゅき~、そんなに力いれたら痛いでしゅ」 「ご、ごめんポプリ」 「みんな、こんな時こそ平常心よ」 「ゆりちゃんも歩き回ってないで座ってね」 長い祈りの時を経て生まれた一輪の花――花咲ふたば。 10.ハミィ&エレン 「ハミィはただの猫ニャ」/一六◆6/pMjwqUTk 「にゃーにゃー、ハミィはただの猫ニャ」 「違う!コイツ喋れるぞ!」 子猫を取り囲む少年たちに、立ちはだかる少女。 「ええ、ただの猫じゃないわ。私の大事な大事な親友よ!」 少年たちが後ずさったのは、エレンの剣幕に恐れをなして? それとも真っ赤に染まった彼女の顔に、毒気を抜かれてしまったから?
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第5話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。クローバーで遊園地――』 たくさんの人が波を作る。 波は大きな流れとなって人々を誘う。 大勢の人が同じ目的で列を成して歩く。ラビリンスでは馴染んだ光景。 違うのは表情。そして、繋がり。 家族、友達、恋人同士。 笑顔と興奮と感動。 そこにある――幸せ。 「どうしたの、せつな。驚いちゃった? 休日の遊園地だもの、このくらい当然よ」 「もし、調子悪いなら言ってね。色々お薬もあるから」 「ごめんなさい、平気よ。みんな楽しそうね」 心配そうな美希とブッキーに笑顔を返す。せつなにとって初めての遊園地だった。 「お待たせ! チケット買ってきたよ。今日は一日フリーパスなんだから」 「そうこなくっちゃ!」 「うん、楽しみ!」 「私もたくさん乗ってみたいわ」 せつなは期待に胸を膨らませる。それは、幾度か経験のあるラブたちも同じ。 せつなと乗れる。せつなと遊べる。新鮮な喜びを分かち合える。それが何より楽しみだった。 入場門をくぐる。 一歩先はおとぎの国。人を楽しませるためだけに存在する空間。幸せの集う場所。 「さあ、行こう!」 ラブにつられるように、四人はいっせいに駆け出した。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。クローバーで遊園地――』 「私、あれに乗ってみたい!」 せつなが指さしたのはメリーゴーランド。 優しい光と、楽しい音楽。可愛い動物達に乗って回転に身をまかせる。誰に振ったかわからない手を見つけて、せつなは手を振り返した。 「とほほ、この歳で乗ることになるなんて」 「まあまあ、このポニー、家で預かってる子にお鼻が似てるし」 「知らないわよ、そんなの」 「恥ずかしくないよ、美希たん。あたしは今でも好きだよ」 次はコーヒーカップ。 緩やかな螺旋を描きつつ、高速で回転する。――いや、高速なのは一重にラブのせいだ。 せつなは平然と、美希と祈里は抱きあって悲鳴を上げていた。 「いっくよ~」 「ちょっと、ラブ、早すぎよ!」 「ラブちゃん目が回る」 「複雑な動きね。サイクロイド曲線になっているのね」 「だから……知らないわよ」 そして……観覧車で休憩。 コトコトコト、ゆっくりと上昇していく。室内は冷房が効いていて快適だ。 ラブは案内図を見ながらせつなとコースを確認する。美希と祈里は……。 「う~~気持ち悪い。酔った……」 「はい、美希ちゃん。乗り物酔いのお薬、先に飲んでおけばよかったね」 そう言う祈里も、青い顔をしながら薬を飲み込んだ。 そして、ジェットコースター! 最近リニューアルされた目玉アトラクションだ。 ゴンゴンゴン。ゆっくりした上昇から一気に急降下する。自由落下に迫る下降速度は、人体の感覚を狂わせ混乱に陥れる。 水平回転、宙返り、垂直ループ。バンク角度と高低差がついた急カーブ。次々に襲いかかる恐怖に乗客は絶叫する。 「「「きゃぁぁぁぁぁ!!!」」」 みんなも叫んだ。ラブは笑顔で、美希とブッキーは目を閉じて。 せつなはそんな様子を、不思議そうに見ていた。 「どうしたの、せつな? 楽しくなかった?」 「楽しくないわよ、アタシは死ぬかと思った」 「うん、怖かったよ~~」 「どうして……。――ううん、なんでもない」 乗り物は疲れたので、お化け屋敷に入ることにした。 このお化け屋敷は、本格派と評判も高い。 ラブはせつなと。美希は祈里とそれぞれペアを組んだ。 「きゃぁぁ! せつな、あれ! あれ!」 「落ち着いて、作り物よ。そっちはただの水蒸気よ」 「いゃぁぁぁぁぁ!」 「大丈夫よ、美希ちゃん。この子たちは可愛いよ」 なんとか出口にたどり着いた。 「なんか色々疲れた……」 「わたしは楽しかった!」 「あたしもすっごく楽しい。せつなは? あれ……せつな?」 「ねえ、ラブ。どうして……わざわざ恐怖を与えるような物を作るのかしら。ジェットコースターにしてもそう。スピード感を楽しみたいにしては、度が過ぎていたわ」 不満、と言うほどでもない。ただ、何か釈然としないとせつなは語った。 実際、出口から出てくる子供たちの中には、恐怖で泣いている子も少なくなかった。 そして、そんなものほど人気が高いのも納得がいかなかった。 「えっと、なんて言うんだろう? 怖いから楽しいというか」 「叫ぶのが気持ちいいのかな?」 「勇気を試すのよ……多分」 ラブたちの説明も、どれも満足のいくものではなかった。 (この世界で育っていない私には、理解できないのかもしれない) なんとなく寂しい気持ちになる。 「えーん、えーん。おにいちゃん。ぱぱ~、まま~」 小さな女の子が泣いていた。迷子らしい。ラブたちは駆け寄った。 「どうしたの?」 ラブはしゃがんで事情を尋ねる。祈里はハンカチを取り出して涙を拭う。 美希は係員を呼びに走った。 手際のよい行動に、せつなは目を丸くする。自分は何もできなかった。 少し考えて、アイスクリームを買うことにした。甘いものを食べれば、少しは気持ちが落ち着くかもしれない。 「はい、どうぞ」 お姉さんたちに囲まれ、優しくしてもらって安心したのだろう。お礼を言って女の子は食べ始めた。 そのまま、しばらく話し相手になった。両親とはぐれて兄妹だけになったこと。そのお兄さんともはぐれてしまったこと。 話していて恐怖を思い出したのか、また泣き出しそうになる。大丈夫よ、そう言ってせつなは抱きしめた。 遊びにきて、怖い思いをする。残念なことだと思う。 「あっ! ぱぱ~、まま~、おにいちゃん~」 女の子が、迎えに来た家族を見つけて駆け寄った。抱きついて号泣する。そして、すぐに満面の笑顔を取り戻した。 その子のご両親が丁寧にお礼を言う。 別れ際、その笑顔を見て思う。それは――今日見たどんな笑顔よりも輝いていると。 でも、どうして……。 そう考えて、思い至る。あの子の心を満たすもの。それは――安心。 はぐれるという不幸を体験したことで、普段感じていない、家族と一緒にいられる幸せを実感したんだ。 幸せと不幸は隣り合わせ。幸せを求めることは、ただ不幸を否定して遠ざけることではないのかもしれない。 だったら……。 ジェットコースターもお化け屋敷も、同じなのかもしれない。 安全に恐怖を体験することで、無事帰還する安心と喜びを得るためのアトラクション。 やっぱり……この世界の全ては優しさに満ちている。せつなは嬉しくなった。 「ラブ~美希~ブッキー~! 私、もう一度ジェットコースターに乗りたいわ。行きましょう!」 「うん、行こう。せつなっ」 「「えぇぇぇ――!!」」 せつなとラブは、それぞれ嫌がる美希と祈里の手を取って駆け出した。 「ねえ、ラブ。私はあまり恐怖は感じないの。だから、みんなほどさっきは楽しめなかった」 幼い頃からの訓練の繰り返し。その中にはGの耐性訓練も含まれていた。 「でも、今度は楽しんでみせる。精一杯、大声で叫んでやるんだから!」 そう言って笑うせつなの表情は――やっぱり今日一番に輝いていた。 たくさんの人が波を作る。 波は大きな流れとなって人々を導く。 大勢の人が同じ目的で列を成して歩く。繋がり、共感し、分かち合う喜び。 思いやりに満ちた施設と催し物。 家族、友達、恋人同士。 緊張と恐怖と安堵。 そして思い出す――幸せ。
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まどろみに、惑うて。 やがて落ち行く、その先には。 Call Me その瞳に、その笑顔に、その心に救われた。 真っ直ぐに自分を見つめてくれた、彼女。 愛を意味する言葉を、名付けられた少女。 ピンクのハートを抱く、伝説の戦士。 彼女は、彼女を想う。 その優しさを、そのひたむきさを、その全てを、羨ましいと思った。 憧れた。 けれど憧れは、いつしか焦がれに変わって。 求める気持ちを止められなくなる。 胸の奥でうずく衝動。ドクン、ドクンと激しく脈打つ心の臓。 目が離せない。 何気ない仕草一つすら、見逃せないと思ってしまう。 心のベクトルはいつだって、彼女に向かっている。 彼女の柔らかい、桃色の唇に名を呼ばれる度に、胸は歓喜に震える。 ただそれだけのことが、幸せだった。 けれど。 いつからか、飢えてきた。飢えるように、なってしまった。 もっと、もっと幸せを。 もっともっと、彼女に近付きたい。 名を呼ばれる度に、幸せに思う。けれど、渇する。欲する。 もっと、もっとと心が叫ぶ。 貴方をもっと、ちょうだい。 幸せを私に、ちょうだい、と。 けれどそれは、許されないこと。秘め事。 求めることすら禁忌。そして裏切り。 家族だから。友達だから。仲間だから。 女同士、だから。 自分を救ってくれた全ての事柄が、今度は彼女の心を縛る。 絶対に壊してはいけないものたち。守ると誓ったものたち。 もしもその楔がなければ、かつての何もない自分であったなら。 奪っていたかもしれない。力ずくに。 そうしたとしても、本当に求めていたものは、手に入らなかっただろうけれど。 だから。 私は幸せだと、彼女は自分に言い聞かせる。 これで満足しなくてはいけないと。 彼女とずっと一緒にいられる、それだけでいいじゃない、と。 けれどある時、気付いてしまった。 ずっと、ずっと一緒ということは。 ずっとずっとこの気持ちを隠しながら、側にいなきゃいけないということで。 この先、何年、何十年と。 嗚呼。私の心は、体は、耐えられるだろうか。 この口はいつまで、秘密を守り続けられるだろうか。 側にいたい。けれど、苦しい。 それは甘美な拷問のよう。 目の前にあるのに、決して、手は届かない、熟した秘密の果実。 だから、せめて。 「ねぇ、ラブ」 「ん? なぁに、せつな?」 「私のこと――――好き?」 「もっちろん。大好きだよ」 言って彼女は笑う。 その純粋な笑みに、彼女の心の闇はチクリと痛むけれど。 せめて、これぐらいは許して欲しいと祈る。 これだけで、私は満足だからと。 けれど心はいつだって欲張りで。 やがて満たされなくなる未来から、彼女は。 目をそらしていた。
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【確かな光】/恵千果◆EeRc0idolE この世界に、自分よりもずっとずっと大切な人がいる。それは、どれ程すごいことなんだろう。 そんな人に出会えたわたしは、なんて幸せなんだろう。 朝の光がカーテンの隙間からこぼれ落ちて、わたしを優しく起こした。 薄暗い館での生活が長かったせいでまだ慣れないけれど、陽光の眩しさが嬉しいと思える。 けれどまた、そんな風に感じる自分にも戸惑いを覚える。 相反する感情の動きに立ちすくみ、ベッドの中で身動きが取れずにいた。 コンコンコン。ノックが3つ。ラブだ。 「はい」 「おはようせつな。もう起きてたんだ」 「ついさっき起きたところよ」 眩しい。ラブの笑顔からも柔らかな光がもれてくるよう。 あなたって、まるで太陽みたい。 「ゆっくり眠れた?」 「ええ、ぐっすり。夢を見なかったのは久しぶりよ」 「夢?せつなはどんな夢をよく見るの?」 「……内緒。言わないわ」 「えー!せつなのケチー!教えてよ。あたしの夢も教えてあげるから」 「だめ」 「なんで!」 「……恥ずかしいから」 言えないわ。だって、あなたの夢なんだもの。 いつだって、夢に出て来るのは、あなたとわたしが楽しく過ごす場面ばかり。 おしゃべりをしたり、ドーナツを食べたり、買い物をしたり。 あまりにも楽しくて、目が醒めた時、目醒めたことを後悔して酷く虚しくなるほどに。 急に黙り込んだわたしのすぐそばに腰をかけて、ラブは口を開いた。 「せつな、あたし……起きた時にね。全部夢だったらどうしようかと思ったの。せつながちゃんと居てくれるか、急に不安になっちゃって……。 でもドアをノックして、せつなの声がして。姿が見えて。すごく嬉しかった」 「ラブ……。わたしもまだ、夢の中にいるのかしら。ラブの家にいて、ラブの隣の部屋で眠れて、それから……ラブが起こしに来てくれて。これが夢なら醒めなければいいのに」 「夢なんかじゃないよ!せつなはこれからこの家で、たくさんたくさんやることがあるの」 「なあに?何をすればいいの?」 「楽しいことをだよ!あたしと暮らしながら、楽しいことをたっくさん!」 「楽しい……こと……たくさん……」 「そう!楽しみにしててね!」 いきなり、むぎゅっと強く抱き締められた。 「夢じゃない……ホンモノのせつなだ……」 「ラブ……」 ラブの息づかいが耳元にかかり、こそばゆい。 わたしも怖ず怖ずとラブの背中に腕をまわす。 強い力でしがみつくラブの背中をあやすようにそっと撫でると、強張っていたラブの身体から少しずつ力が抜けてゆく。 「……よろしくお願いします」 「そんな言い方、他人行儀だよ!」 「そうかしら」 「だってあたしたち、今日から家族なんだから!」 家族。生まれて初めてできた、わたしの家族。この世で一番大切な人が、今、わたしを家族にしてくれた。 目頭が熱くなり、視界がぼやける。わたしの眼からこぼれ落ちた雫をラブは指で拭うと、そのまま口元へ運び、ぺろりと舐めた。 「しょっぱいね」 「ラブったら!」 「だってもったいないもん。せつなの涙」 「どして?」 「だってキラキラしてる」 キラキラしてるのはあなたよ、ラブ。こんなに眩しくわたしを照らしてる。 その確かな煌めきで、わたしの未来を明るく射し示してくれている。 あなたはわたしの光。今までも、これからも。
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ラブ・ルピア 火 アンコモン 4 4000 ファイアー・バード ■このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、次の自分のターンの始めまで、相手がクリーチャーを選ぶ時、バトルゾーンにある自分のクリーチャーを選ぶことはできない。(ただし、攻撃またはブロックしてもよい。) みんな、大好きだッピ❤❤❤❤❤❤❤ ―ラブ・ルピア 作者:影虎 収録 蘇生編 第一弾 (リヴァイヴ・ブレイブス) 名前 コメント
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中学生特有の病気(心の方の)/そらまめ 「ど、どうしたのっ? 怪我?! 怪我したのせつなちゃんっ!!?」 「お、落ち着いてブッキー! せつな怪我なんてしてないから!」 「じゃあなんで右目に眼帯を…もしかしてものもらいとか?」 「ううん…それも違うんだよ…」 「?」 休日、いつもの公園で待ち合わせのためみんなを待っていた祈里は、若干疲れた様子のラブと、思いつめたように険しい顔をしたせつなを見つけて思わず駆け寄った。 ものもらいの時などにする一般的な白色の眼帯に思わず手を伸ばす。怪我でも病気でもないならなぜこんなものを… 「っ! 触っては駄目よブッキー!!」 「えっ!? ご、ごめんねせつなちゃん…やっぱり怪我したの…? 大丈夫?」 「ごめんなさいブッキー…でも、この眼帯は取っては駄目なの…外してしまったら、私にも手が付けられないかもしれない…」 「え? え? どういうこと…」 「この右眼にはかつて世界を滅ぼしたと言われている伝説の獣神の力が封印されているの。もしこれが解放されたら私は私でいられなくなってしまう。この街だけじゃなく世界を滅ぼす存在となってしまうかもしれないの。だから、これはいくらブッキーのお願いでも外せないのよ」 「………ほんとにどうしたの」 「ブッキー真顔であたしの顔見るの止めて。あと眼が死んでるよ戻ってきて!」 眼帯をしたせつなはいつものようにドーナツとドリンクを目の前に、やはり険しい顔を崩さない。時折右眼を触りながら、「ぐっ鎮まれっ! お前はまだ出てきちゃいけないっ!」 とか「ふふふっ、私の意識を乗っ取ろうとしてるみたいだけどそうはいかないわよ…」などと小声でぶつぶつ言いながら、たまに左腕もさすっていた。 「ごめんみんなっ、今朝の仕事が押しちゃって遅れちゃった…ってどうしたのラブ、ブッキー、目が死んでるわよ」 「「……」」 「あとせつな、眼帯なんてしてどこか怪我したの? 病気?」 「怪我でも病気でもないんだよ美希たん…」 「ぐぁっ…! また、封印を解こうとやつらが攻撃をっ…! みんな私から離れてっ!!」 「…………病気じゃない。心の」 「ああっ…美希たんの目まで死んだ魚みたいに…」 「ラブ、アレ、説明、ハヤク」 「なんで若干片言な上に命令口調…」 「心を病んじゃってるんだよねきっと…ほら、せつなちゃんって抱え込んじゃう所があるから日頃溜まったストレスがここにきて消化不良をおこしちゃってるんだよ!」 「ブッキー、アタシ何かの雑誌で読んだけど、こういうのって無理やり理解してあげようとすると返ってダメージが大きいらしいわよ」 「せつながああなったの実はよくわからなくて…昨日の夜学校の宿題の調べもので一緒にパソコン使ってたんだけど、あたし途中で寝ちゃって…起きたらあんな感じに…」 「原因はパソコンね」 「そうだね。それしか考えられないよ」 「あ、やっぱりみんなもそう思う? だよねえせつなの口から獣神とか普通でてこないよね…」 三人揃ってせつなを見た。視線に気づかない当の本人は左腕を抑えながら「ぐ、勝手に私の体を操作しようっていうのっ? そうは、させないっ!!」とか言いながらドーナツを掴もうとする左手を反対の手で抑えるというひとり芝居をしていた。この光景を見る自分の目がなんだか濁ったような気がするが、現実から目を背けちゃだめだ!と心の中の葛藤の末、思い切ってせつなに話しかけてみる事にした。 「せつな、よく聞いて。あなたは今病気なの。とても深刻な」 「み、美希ちゃんっ! ストレートすぎるよっ」 「ブッキー、こういう輩には自身を客観的に見るってことが完治させるには必要なのよ」 「美希…わかってるわ自分が病気だってことくらい…でもね、この苦しみは分ける事はできないの。この宿命から逃れるなんて無理なのよ。だから向き合わなくちゃ。現実と」 「なんだろう。合っているようで合っていないっていうか、せつなの現実がよくわからないよあたし…」 「宿命とかって単語があれよね。せつな、あなたのその病気はね、一種の思い込みのようなものなのよ。わかる?」 「ええ。誰にも理解されないって事は分かるわ。だってみんなには、前世の記憶ってないでしょ?」 「ああぁあ…」 「美希たん諦めちゃだめだよっ」 「でも、イースを前世と考えればせつなちゃんには前世の記憶があるって言えるかも…」 「ブッキー真面目に考えちゃダメっ!」 「私の中の力が暴走してしまう前に何とかしないと…」 「せつな落ち着いて!! 今暴走してるのはせつなの妄想だよっ!!」 収拾がつかなくなりそうだったので一旦言い争いは止めました。 その後、どうやっても会話が噛み合わなかったので半ば諦めたように様子を見る事にした面々は解散した。 結局、それからせつながいつものせつなに戻ったのは一週間後の話。 競作2-28は、この事件の「裏」のお話。